notes from the doctor

院長Note

抜かない歯並びの矯正は本当にいいの?

岸本雅吉著 抜かない削らない「歯並び」の矯正 東洋医学編 を読んで

副題は、以下のようなものでした。

より美しくより健やかに抜かない削らない「歯並び」の矯正
健康がよみがえる
頭痛・肩こり・不眠・うつも改善する!
矯正とは外科なしで本来の姿に戻すこと
歯が全身の健康に深く関わっていることは、もはや常識でしょう。歯は臓器であり、命の入り口で全身の健康を維持しています。そして、矯正治療は、美容を優先する治療ではなく身体を本来の姿に戻す矯正だと語ります。本来の姿に戻す矯正とは、全体のバランスを考慮し、外科的処置をすることなく、歯を削る・抜くはせず、再発の可能性が少なく、不定愁訴が消えやすい治療だと言います。目的としてキレイを目指すのではなく、結果としてキレイになるのです。
筆者は、長年の経験から、矯正治療によって、頭痛・肩こり・不眠・うつを改善した人が続出したそうです。これが何を物語るかというと、悪い歯並びやかみ合わせが、不定愁訴の大きな原因の一つだったということです。筆者の懸念は、不正愁訴予備軍が多いことです。悪い歯並びやかみ合わせでも、問題が顕在化していないだけの人が多いそうです。こうした方は、許容範囲内でかろうじて自己調整している人といえます。とくに、前歯がキレイに並んでいるために、歯並びの問題を時間していないが、あまり目に触れない奥歯に問題のある人が多いのです。
たとえば、かみ合わせが悪いと、脳の血流量にも影響します。悪いかみ合わせで自律神経のバランスを崩し、不眠の原因になることもあります。
さらに東洋医学全般についても解説しており、興味深いないようでした。
歯は臓器です。そして、それぞれの歯に役割があり、不必要な歯は1本もないと言います。「歯は28本(親知らずを除いて)そろっていて、本来のあるべき姿です。不必要な歯は1本もない。28本の歯が揃っていて歯の機能は十分に果たされ、健康が維持される」そうです。
しかし、私自身は、この親知らずだけを除いて考えることに違和感があります。筆者は、少なくともこの本の中では、親知らずだけ除いて考えてもよい理由を述べていません。あまりに勝手すぎる理論だと感じました。
私自身は、非抜歯矯正を行った症例報告を論文にしたこともあるくらいなので、どちらかというと非抜歯矯正を得意としています。しかし、非抜歯矯正とはいえ、親知らずまで抜かずに全体の本格矯正を完成できことは一度もありません。千例以上の矯正治療に携わってです。(もともと歯の本数が少なかった人は例外です。)
つまり、非抜歯矯正とは、小臼歯を抜歯しないことを意味するだけで、逆に、ほぼ必ず親知らずを抜歯する矯正とも言えます。親知らずは、前から数えて8番目の歯です。前から数えて6番目の歯を第一大臼歯、7番を第二大臼歯、親知らずのことを第三大臼歯と言います。すなわち、小臼歯非抜歯治療は、大臼歯抜歯治療と言い換えることができると思います。
ここで考えてほしいのは、小臼歯と大臼歯とで、どちらが身体にとって重要なのかということです。もちろん、どちらも大事なのです。少なくとも、農耕民族である日本人にとって、大臼歯の方が大事ということに異論はないでしょう。大きさは、個人差がありますが、一般的には、小臼歯より親知らずの方が大きいです。そして、抜歯するとき、親知らずの場合は、骨を削ったりするので、身体の侵襲が大きく、事故になるリスクも高いです。
ということは、親知らずを別扱いにする考えは妥当ではなく、大臼歯の抜歯は平気でしておいて、小臼歯抜歯はしない方がいいと決めつけるのはおかしいと思います。
では、なぜ、非抜歯矯正をアピールする先生が多いのでしょうか。3つくらい考えられます。
①患者の強いニーズに応えるマーケティング戦略や差別化戦略
②とくにマウスピース矯正では抜歯矯正が難しい
③不勉強な先生の誤解
①については、みなさん理解してもらえると思うので、ここでは説明を省きます。
②については、日本矯正歯科学会は、マウスピース矯正では、歯の角度のコントロールが難しいため、抜歯矯正は難しいと発表しています。私自身も多くの抜歯矯正には適用できないと考えます。結果、どうなるのかというと、治療は開始しやすいが、きちんと最後まで完了しにくいということです。
③は、残念な理由なのですが、現実にそういう先生が少なくないので、あらためて詳しく説明します。歯科矯正学を学べば学ぶほど、実は非抜歯治療の方が難しく、きちんと仕上げるためには治療期間もかかるはずです。しかし、浅い知識、浅い経験だと非抜歯治療の方が容易で短期間で治療できると誤解する初心者の先生が案外多い、ということです。
非抜歯=優れているわけではないです。重度叢生で無理に非抜歯矯正すると、歯根吸収、歯肉退縮、咬合崩壊のリスクが高まります。また、後戻りもしやすいです。つまり、抜歯矯正より非抜歯矯正のほうが、かえって難しいのですが、患者や多くの歯科医師がそれを理解していない可能性があります。
私の経験上、抜歯したことを後悔する患者より、抜歯しなかったことを後悔する患者の方が圧倒的に多く、中には、抜歯矯正での再治療を希望する人もいます。
以上、矯正治療の意義や、東洋医学の入門的な知識をわかりやすく書いていた本ではあったのですが、私としては、一方的に非抜歯治療をすすめるような内容になっており、親知らずは除外するという考えには賛同できませんでした。あえて、記事にすることで、患者さんが知ってほしい、抜歯矯正と非抜歯矯正の真実について、私の意見を追加して、感想を書かせてもらいました。
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