notes from the doctor

院長Note

厚労省がキャンセル料について訂正 振り回される歯科医院

従来、通常の保険診療予約に対してキャンセル料を徴収することは療担規則第5条違反のおそれが高いため、一般の歯科医院では、どんなに長時間処置予定の予約も保険治療においてキャンセル料を徴収することはできませんでした。

厚生労働省は、3月に医療機関向けに予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料についての通知を出しました。これで、6月1日から、予約に対するキャンセル料を徴収できるようになり、上記による他の患者や医院の不利益は解消されていくものと考えていました。当院も早速5月6日から、保険治療におけるキャンセル料の徴収について、医院窓口、公式サイト、公式LINE、Instagramなどを通じて、広く周知活動を行い、8月1日から徴収する予定でした。

それが、直前の5月29日になって、厚生労働省は6月1日より適用される診療報酬改定関連通知の一部訂正を事務連絡を発出しました。選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料と訂正しました。この選定療養というのは、私たち医療人でも聞きなれない言葉で、事実上ほぼすべての保険治療におけるキャンセル料は、従来通り徴収困難なままとなりました。3月の通知でようやく「取れる」と期待が高まった直後の急な訂正に、多くの歯科関係者が困惑と怒りを隠せません。

実は、日本の医療は、ほとんどが保険治療で、その治療費や治療法を厚労省が定めています。医療の分野だけ、まるで社会主義のようなしくみとなっています。そのおかげで、どの医療機関で治療を受けても同一料金のため、比較的低価格で一定の医療サービスを受けられるというメリットはあるのですが、デメリットもあります。厚労省が誤った判断をした場合に、その影響は全国の歯科医院と患者さんに直接跳ね返ります。

医療機関だけが「キャンセル料を取ってはいけない」という特殊ルールに縛られるのは、他業種と比べて明らかに不公平です。美容室、整体院、レストラン、習い事など、予約制のサービスを提供するほとんどの事業者は、事前説明のもとで合理的なキャンセル料を設定・徴収しています。しかし歯科医院だけが療担規則や保険診療の制約でそれが極めて難しく、「無断・直前キャンセルは実質ノーリスク」という患者側のインセンティブが生まれてしまっています。これでは予約を守る意識が育たず、医院の経営は不安定化し、結果として診療報酬でカバーしきれない人件費・設備投資の負担がさらに重くなります。長期的には、医院のモチベーション低下につながりかねません。当院においては、自費診療の治療費にその損失分を添加せざるを得ません。

厚生労働省には、現場の声を真摯に聞き、早期に再訂正または明確な運用指針を示していただきたいと強く願います。少なくとも、事前に十分な説明を行い、患者さんの合意を得た上で設定する合理的なキャンセル料については、保険診療であっても柔軟に認める方向性が必要ではないでしょうか。

加えて、医院の経営環境は物価高騰によってさらに厳しさを増しています。歯科用グローブはコロナ禍前と比較すると3⁻5倍近くに高騰しています。その他の滅菌関係の資材価格も大きく跳ね上がっています。歯科材料コストの中で最も高い割合を占める歯科用金属(金・銀・パラジウムなど)はコロナ禍前と比較して2倍超になったという試算もあります。これらのコスト上昇は診療の基盤を直接圧迫しています。それにもかかわらず、今回の令和8年度診療報酬改定では、賃金アップへの一定の点数引き上げはあったものの、物価高騰対策としてはすずめの涙程度(0.1%)の点数しか認められませんでした。しかも、医療DX化(電子カルテ共有やデジタル印象採得など)など国の方針に積極的に従う医院しか十分な恩恵を受けられないような加算中心の設計だった点も、現場の不満を高めています。すべての医院が同じように物価高に苦しんでいる中で、こうした「選別的な支援」は公平性を欠いているとの声が少なくありません。
実際に、昨年2025年は医療機関の倒産が過去最多となり、今年も高水準が継続しています。先日6月3日には、福岡のイオンモール内の大規模歯科医院が急な閉院となり、多くの患者さんに影響が出ていることが大きく報じられました。売上5億円近い、通常の歯科医院の10倍ほどの規模を誇っていた医療法人だけに、驚きを隠せません。一昨年、大阪の駅前ビル内の歯科・矯正歯科が突然閉院し、矯正治療中の患者さんに影響がありました。大型施設は集客力がある一方で、テナント料が高く、経営不振時の逃げ場がないことを指摘されています。
一方で、すべての医院で存続が危ないわけではない点も重要です。DX推進、自費診療強化、集患力向上を実行している医院は安定成長しており、二極化が加速しているということも、伝えておきたいことです。
医療機関だけが「キャンセル料を取ってはいけない」という特殊ルールに縛られるのは、他業種と比べて明らかに不公平です。

当院といたしましても、患者さまとの信頼関係を最優先に考えながらも、予約を守ることの大切さを丁寧にお伝えしていく所存です。無断キャンセルや直前キャンセルを繰り返される方には、保険診療であっても予約制限などの対応をせざるを得ないケースも出てくるかもしれません。何卒ご理解とご協力をお願い申し上げます。

一覧へ