学校歯科健診を終えて
気になった点をまとめてみます。
●小中高生とも、健康に成長発育している生徒と、きちんと成長できていない生徒と二極化している。
●小学生は、まっすぐ立てなくなっている。奥歯で噛めない子が増えている。口角が上がらず、スマイルを作れない子が増えている。
●中学生は、う蝕が増えている。矯正治療中の生徒が増えているが、まだ永久歯が生えそろわない段階での本格矯正が増えている。
●高校生は、矯正治療中の生徒が増えているが、非抜歯矯正治療が圧倒的に多い。診断に疑問が残る生徒も。
・私たちが子供のころと大きく違って、最近の生徒は要治療のむし歯がある生徒はクラスに2,3人しかいません。顎関節、咬合(歯並びとかみ合わせ)、歯周に問題なければ、パーフェクトの口腔内ということになるのですが、そういう生徒が実は一番多いです。
・気をつけができないというか、ふらふらしていたり、正面を向けなかったり、直立できない子が、小学生に増えてきました。
・そういう子は、決まって奥歯で噛めません。食いしばれないので、体幹に力が入らないように見えます。運動が足りなかったり、普段の座る姿勢に問題があるのかもしれません。
・口角が上がらず、「イーして」といってもスマイルをつくれない子が激増しています。これは、マスクの影響が大きいのではないかと思います。写真をとるときもマスクをしてきた子供たちは、人前でほとんどスマイルをつくる機会がなかったのではないでしょうか。海外では、アイコンタクト以上にスマイルで好意を伝えることも多いので、将来が心配です。当院では、「あいうべ体操」の指導をよく行っています。その際にも、とにかく口角が上がらない子供が多いと感じています。
・中学生には、以外とむし歯が増えています。といっても、みんなではなく、一部の生徒だけです。しかも、その生徒に数カ所みつかることが増えています。当院でも、中高大生や成人の一部の人の複数のむし歯がこの3年くらいで激増しました。私個人的には、その一部の人の免疫力が一時的に低下したのではないかと思います。一時期より少し落ち着いてきたかもしれません。
・中学生で矯正装置が付いている人が急増しています。健康への意識が高まったことなので、とてもうれしいことですが、手放しに喜べない点もあります。第二大臼歯、すなわち12歳臼歯が萌出する時期が時代と共にどんどん遅くなり、最新のデータでは平均14歳半で萌出するといわれています。つまり、ほとんどの生徒が中3になって、ようやく永久歯列が完成して、本格矯正を開始できるようになります。しかし、それより早い段階で矯正装置がついているということは、治療終了時に本当に第二大臼歯まで咬合した状態で、治療を完了しているのか心配です。さらに、ほとんどの人がその後に親知らずと呼ばれる第三大臼歯も萌出してくるので、装置撤去時期が早すぎると、撤去後に最も大事な奥歯の咬合が崩れてしまうリスクがあります。以上の点を考慮して、成長速度に個人差がありますが、当院では、高校生になってから本格矯正を開始することが増えてきています。
・高校生で矯正装置が付いている人は、中学生よりもっと増えています。中には、アライナー治療といって、透明なマウスピースを20時間以上装着することによって少しずつ歯を動かす治療を行っている生徒もいました。
●気になったのは、本格矯正を行っている人に、「非抜歯治療」と呼ばれる小臼歯を抜歯しない方法で治療している人が圧倒的に多かった点です。日本人は、顔が平たいと言われるように顔面の奥行きが少ないため歯が生えるスペースがとても少ないです。それなのに、白人より歯が大きいので、デコボコがたくさんある人がおそらく世界一多いです。だから、矯正専門医が治療を行う場合、7-8割が抜歯矯正になると昔から言われてきました。最近の日本人はさらに小顔になり歯はさらに大きくなっているので、抜歯矯正の割合がもっと多くなるはずです。でも、今回の健診では、矯正治療中や矯正治療後の人のうち、9割は非抜歯治療でした。そして、抜歯矯正が適切なケースで非抜歯治療を受けている例も少なくありませんでした。
●治療が完了して保定を開始しているが、しっかり噛んでいない生徒もわりといました。
●矯正治療は、正しい咬合を構築する治療です。でこぼこをとるだけでは、上下の歯が前歯から臼歯まで緊密に噛むことができず、全身の不健康リスクが増えてしまいます。当院にも、矯正治療を他院で一度行ったが、納得できなくて、とか、安定しなくて、とか、顎関節症になって、とか、治療後に問題が発生したため、再治療を希望する人が少なくありません。
●以上のようなことがあるので、矯正治療は、矯正歯科に精通した歯科医師に治療を行ってもらってほしいと願っています。「小児矯正」という言葉が急に普及して一人歩きしたため、小児歯科の先生も矯正治療の知識が深いと勘違いしている人がいるかもしれません。もちろん、矯正歯科も改めて勉強している先生もいますが、矯正歯科の勉強は、おそらく歯科分野の中でもっとも時間のかかる分野なので、両方を極めている先生は数少ないです。
●このような他の歯科医師の治療を批判するような記事を書きながら、当院が完璧な治療をできているかと言うと、そうでない部分もあるかもしれませんし、予約の取りにくさもあります。すべての希望者を受け入れることはできません。それでは、どういった歯科医院がいいの?と聞かれることも少なくないです。
●私個人的には①最低でも日本矯正歯科学会に所属②日本矯正歯科学会認定医以上が望ましい③矯正担当医が常勤に近いのが望ましい、と思います。
・この日本矯正歯科学会の認定医取得には5年以上の研修と100例以上の経験が必要です。大学病院に5年、6年勤務しても条件を満たせなかったり、試験で不合格になったりする先生もいます。個人的に取得条件が厳しすぎると思いますが、それだけに最も信用できる矯正歯科の資格だと思います。インビザライン認定医やインコグニート認定医などのそれ以外の認定医は数日の研修ですぐに取得できる資格がほとんどです。
・広島は、広島大学矯正歯科と岡山大学矯正歯科が近くにあるため、日本矯正歯科学会認定医がとても充足している地域です。安佐南区こそ同認定医が少ないですが、中区や佐伯区には、とても多くいるので、検索して探してみて下さい。
