notes from the doctor

院長Note

上顎前突(出っ歯)の早期治療の是非

最も売れているもののひとつである歯科医向け雑誌「ザ・クインテッセンス」で「上顎前突の早期治療」について特集記事がありました。2026年1月号です。

結論として記事の「おわりに」をそのまま引用します。歯科医向けとはいえ、矯正専門医向けではなく一般歯科医向けなので、嚙み砕いて書かれており、一般の人が読んでも、ちゃんと理解できると思います。ここでいう早期治療とは、11歳くらいまでの側方歯群交換期を指すことが一般的です。

上顎前突の早期治療は否定派が多く、もし行うのであれば上顎前突のガイドラインをよく読んでから、症例を見極め、慎重にはじめたほうがよい。たとえ乳歯列期や切歯交換期において上顎前突を治しても、側方歯群交換機の思春期性の成長により上顎前突になる症例も多い。

私は何度か公式サイト「診療内容」、LINE、院長Noteなどで、同様の内容を繰り返し述べてきました。しかし、実際には上顎前突の早期治療を症例を選ばず行っている歯科医院が多数存在します。コロナワクチンについても同様でしたが、日本人は専門家の話を理論的に考察することなく、鵜呑みに丸暗記する傾向にあります。つまり、理論的に正しい意見より、多数の意見が尊重されてしまうことがあります。そういう意味では、上顎前突の早期治療への私からの警鐘は、説得力に欠けるものとなっていたかもしれませんが、この記事のお陰で、自信をもって改めて警鐘を鳴らせます。以下は、記事のまとめです。ほぼそのまま引用しています。

記事の中では、上顎前突の矯正治療の早期開始は慎重に考えるべきだということでしたが、環境的要因は早期に治すことを勧めていました。上顎前突の成因は、噛唇癖、口唇閉鎖不全、扁桃肥大などです。当院で行っている早期の対策は、装置を使う早期治療ではなく、口腔機能低下症に対する指導や訓練、つまり、MFT(口腔機能療法)です。残念ながら、現在は人員不足のため、矯正治療を開始していない人には、本格的なMFTを行いていないのが現状ですが、MFTの必要性を感じる人には、書籍を紹介するので、ご家庭で行ってみてください。

【上顎前突の矯正歯科治療について、早期治療の是非の論争についての歴史】

プロフィトの現代矯正学(歯科矯正学の聖書といわれる世界的な教科書です)
早期治療は最終的な治療結果やその後の処置の簡略化において何ら利点をもたらさないばかりか、より長い時間を要するものであった。効果はなく、効率もやや悪かった。

●2013年日本矯正歯科学会(JOS)ガイドライン発表(初版)
Q上顎前突症の患者に対し、Ⅰ期治療はⅡ期治療の治療効果に有効か?
A無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる

●2016年日本歯科矯正専門医学会(JSO)ガイドライン発表
Q上顎前歯が前突した小児(7歳から11歳)に対する早期矯正治療は有効か?
治療を行わないことを推奨する
・早期矯正治療を行う場合は、そのコストと根拠、治療期間と予想される治療結果を十分に説明し、永久歯列期の矯正治療が必要か否かの予測を示した上で、医療提供者の責任において行うべきである。
・外傷の軽減のためだけに早期治療を行うことは、推奨しない。

●2016年日本歯科矯正専門医学会(JSO)「矯正歯科が小児歯科医に伝えたいこと」
上顎前突の早期治療時期は成長スパート前の時期であり、下顎骨成長を利用することが難しい。上顎骨の抑制や下顎骨の成長促進を図る目的で早期矯正治療を行っても、永久歯列期に小臼歯抜歯を行う必要のある症例がほとんどであり、そのような症例では永久歯列期の矯正治療後に早期矯正治療の治療効果を確認することはできない。
早期治療の効果を否定しているのではなく、早期治療の限界を知り、永久歯列期での矯正治療で解決可能な技術や知識を積み重ねてきたことによって、この考えに至った。

 

・当院においても、上顎前突の早期治療については、症例を見極めて、慎重に治療を開始しております。個人差がありますが、およそ12歳を過ぎた成長スパートでのⅠ期治療は積極的に行っております。実際には、その時期に骨格性の上顎前突と診断される人は、この記事にも書かれていたように全体の5%くらいであると思われます。つまり、成長スパート前に上顎前突と診断される人も、成長により自然に改善されているケースがほとんどだと言うことです。放置していても自然な成長で改善される人を、装置のおかげで治ったとして不要なコストや協力を強いることは、避けたい事態です。上顎前突以外の不正咬合については、また別の話になりますので、ご注意ください。

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